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★ ダカール通勤列車の旅 ★


仕事が終えてから汽車の旅に出た。
その日はとても暑い日だったが、ふらっと旅に出たくなった。
旅といっても、ダカール駅から30kmくらい離れた、Rufisque(ルフィスク)という街まで、庶民の足として利用されている通勤列車に揺られて行く小さな旅だ。
アフリカでの初めての列車は、とても心地よく、いっぺんに好きになってしまった。

国際列車の終着駅でもあるダカール駅舎は、その規模こそ小さいが、朝夕の通勤時間帯になると、大勢の人々で賑わう。

駅舎の中にある切符の売り場窓口でルフィスク迄150Fの切符を購入した。路線バスの200Fに比べ、少々安い。駅舎の中には小さな売店もあって、何種類かのジュースが売っていた。
夕方の帰宅時間。次々に人がホームに入ってくる。列車もすぐにやってきた。
セネガルの国旗の色をあしらったのか、黄色と緑色のツートンカラーの小さなディーゼル機関車はうんうんうなりながらホームの端で停車した。
列車は6両編成。小さな機関車に比べて重厚な客車はドイツ製だそうだ。

各車輌の乗り口には警察官がいて、鉄道の治安を守ってくれていた。
乗客が次々に乗り込んでゆく。座席の配置は日本の列車でいうところのボックス席方式。ただし、中央の通路を挟んで片側のみに座席があり、もう一方は取り外され居て座席は無い。客車はすぐに満員ぎゅう詰め状態になった。
18時15分。バップッバプーと、汽笛を鳴らし、ほぼ定刻どおりに発車。
ゆっくりと走り出した列車はいつまでたってもゆっくりのまま、すぐに次の停車駅に到着した。列車が止まったら勝手にどんどん降り、どんどん乗る方式だ。扉はずっと開きっぱなし。再びバップッバプーと警笛をならし、すぐに走り始めるので、乗り降りは迅速に。

ダカールの街中を抜けるまでは、ゆっくりゆっくり各駅に停車してゆく。駅舎などは無く、ホームは砂や塵に埋もれ、かすかに見える程度だが、仕事を終え、帰宅する人々が次々に乗ってくる。ごとんごとんと満員電車に揺られていると、大井町線で通勤していた頃がなんだか懐かしい。
だが、思いにふけっている場合ではないくらい、暑い。
窓は空いているが、とにかくぎゅう詰めだし、速度ものろいから風もほとんど入ってこない。ぽたぽたと鼻先から汗をたらしていたら窓辺に居た人が場所を代わってやるよと言ってくれた。

線路脇は活気に満ち溢れている。
屋台が並び、様々な品を売っている。雑貨やら食材やら羊やら。
子供たちが列車をかすめるように走り回り、自動車が子供たちや羊の群れをかき分けながら砂埃を上げて進む。そもそも、ここが線路、ここが道路という境界が無いわけだが、うまくお互いぶつからずに済んでいる。荷馬車がわだちにはまり荷崩れを起こし、通れなくなった次の馬車の運転手が荷物を拾うのを手伝っている。
人々が夕飯の支度を始めたようだ。各家庭からの料理支度のにおいと、線路脇で売っている肉や魚や家畜の匂いと、どぶやゴミ溜めのにおいが入り混じり、辺り一帯を不思議な匂いに包み込んでいる。

ダカール駅を出てから30分ほどで、チャーロイ駅に到着した。するとすぐに列車の窓越しに商売を始める果物売りのおばちゃんや雑貨売りのお兄ちゃん、小さなビニル袋に小分けした飲み水を売りに来る女の子などが寄ってくる。実に様々な物を売っていて、見ているだけで楽しい。
ほとんどの乗客がここで降りていった。数分間の停車の後、再び列車は汽笛とともに走り始めた。
乗客がぐんと減ったため、車内もいくらか涼しくなった。混沌とした住宅街を抜け、列車はいつの間にか速度を上げ、草原地帯を快調に飛ばしている。 今は雨季のため、乾季は荒野だったところが、草原に変わっているのだ。右側の窓から顔を出しているため、列車が右にカーブすると、小さな機関車に引かれた黄色と緑色の列車が新緑の低木草原地帯を疾走している様子がよくわかる。あの「世界の車窓から」の曲が聞こえてくる。「今日は、西アフリカの草原を走ります。」

住宅がぽつぽつと現れ始め、列車は街に入ってきた。この列車の終着駅、ルフィスクに到着である。みんな一日の仕事の疲れで、少しでも早く家に着きたいんだろうな。まだ停車していないのに、乗客がどんどん飛び降りている。列車はまもなく停車した。列車を降りて、そのまま線路づたいにまっすぐ進んでいく人も居れば、真横に進んでいく人も居る。僕は一応駅舎を通り抜けてみた。
小さな駅舎のあるルフィスク駅前は雑多な街が広がっている。おじさんたちが地面で何か賭け事をやっている。
辺りがだんだん薄暗くなり始め、家路に急ぐ人やら荷馬車でごった返している。
みなさん、今日も一日おつかれさま。

僕は再びダカールまで戻らなくてはならないので、帰りのチケットを買った。
発車まで30分以上あったので、日の暮れたルフィスク駅前を散歩することにした。
雨上がりのため、地面がぐちゃぐちゃだ。車や馬車が忙しそうに行き交っている。夕飯の支度をしているのだろう。あちこちからいい匂いが漂ってくる。
満員電車に1時間近く乗り、汗もびっしょりかいたので、のどが渇いていた。小さな商店でトニック水を飲むことにした。店の主人はトルコ人風だった。いっしょに働いてる少年は彼の息子だろうか、そっくりな顔をしていた。トニック水を一本頼むと、その少年はすっとナイフを出し、その背の部分で軽やかにビンのキャップを空けた。冷えたトニック水は満員電車の疲れを心地よいものに変えてくれた。
肉を焼く、とてもいい匂いがしてくる。すぐ向かいに「ジビテリ屋」があった。サイコロ大の羊の肉を串に刺し、炭火で焼いているのだ。店の前のベンチには、仕事帰りのおじさん達が腰掛け、串焼きをほおばったり、パンにはさんでがぶついている。僕も一応仕事帰りだし、一本だけ食べることにした。ぎゅう詰めのベンチだったが、おじさん達は快く詰めてくれた。スパイスの効いた香ばしい串焼きは、明日の活力を与えてくれる気がした。

バプッバーと、汽笛の音がした。
ホームに行くと、列車が入ってくる。辺りはもう真っ暗だ。機関車のライトがまぶしかった。発車時間になったが、動く気配は無い。ブレーキ用の配管から空気が漏れているようだ。何人かが漏れを直している。僕もその連結器の部分を覗き込んでいたら、機関士のおじさんが話し掛けてきた。セネガルを走っている列車について、いろいろ知ることができた。彼は日本の新幹線のことも知っていた。世間話をしていたら、いきなりその列車は走り出した。慌てて彼に別れを告げ、列車に飛び乗った。
この時間にダカールの街に行く人は少ないのだろう。僕が乗った最後尾のその車輌には、警備の警察官以外に乗客は僕だけだった。しかも、全ての客車は電気が来ていないのか、真っ暗だった。月明かりが、足元を照らしてくれた。 列車は草原地帯を疾走している。月明かりに照らされて草原を走る真っ暗な列車を見ている馬や羊たちは、オオトカゲが急いで家に帰るところと思っているかもしれない。
薄明かりの中、車窓から首を出して風を吸い込む。草のにおいがする。月が黙ってついてくる。時々樹木が近くを通り過ぎるほかは、ゴトンゴトンという車輪の音がするばかりだった。
徐々に家が増え始めた。ダカール市内に戻ってきたようだ。帰りもいくつかの駅に停車しているが、ほとんど乗り降りは無い。
夕方は線路脇までごったがえしていた喧騒が、今は夕食後のゆったりとした時間が流れているようだ。よく見ると、線路脇に腰掛け、ランプをともし、お茶を飲みながらなにやらおしゃべりをしている人たちがたくさん居る。
列車はいよいよだカール駅構内に戻ってきた。速度を歩くくらいに落とし、いくつかの分岐点を通り過ぎる。ゴトッゴトッという音が心地いい。ところどころに水たまりがあり、何匹かのカエルがとても低い声で鳴いている。鉄道関連施設だろうか、いくつかのヨーローッパ調の建物の脇をゆっくりと進む。おじさんが居る。テラスの椅子に腰掛け、夕涼みをしているのだろうか。テーブルの上に置かれたランプの明かりが、ゆらゆらと彼の影を揺らしている。
列車はゆっくりと停車し、終着駅ダカールに到着した。ホームに降りたのは、十数人の乗客と、警備の警察官だけだった。
駅を後にし、夜の街をのんびり歩いて帰宅した。仕事帰りの数時間の小さな旅だったが、また少し、ダカールの粋な部分を知ることができた。





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